成年後見制度とは、高齢者も含めた、判断能力の劣る人々について、その者を保護するという観点から作られた制度をいいます。成年後見制度は、前述の本人保護の要請があるとともに、本人の自己決定を尊重するという要請も働くため、基本的には保護を受ける本人の自己決定を尊重しつつ、本人の利益のために特に必要な場合には、法が必要な範囲で補充的に介入するという構造になっています。
まず、本人の自己決定を尊重するという観点から、本人が、判断能力が低下した場合に備え、予め他人に代理を委託しておくという任意後見制度があります。前述のように、基本的には任意後見制度が優先されますが、任意後見契約がない場合や、本人の利益のため特に必要があると認められるときは法定後見制度が用いられます(任意後見契約に関する法律4条1項2号、同10条1項)。法定後見制度としては、民法上、後見、保佐、補助の三種類が用意されており、これらは、保護の必要性や判断能力の程度に応じて分けられます。
成年後見は、後見開始の審判があった時に開始します(民法838条2号)。そして、後見開始の審判は、精神上の障害により、事理弁識能力を欠く常況にある者を対象に行われます(民法7条)。事理弁識能力とは、行為の結果を認識するに足る精神能力を言い、事理弁識能力を欠く常況にあるとは、強度の精神障害などによりその能力を欠くのが通常の状態となっている者を言うとされます。後見開始の審判が行われ、成年後見人が付された後は、成年被後見人は、日常生活に関する行為を除いて自ら単独で財産上の法律行為を行うことができず、もし単独で行ってしまった場合は、成年後見人が取消すことができます(民法9条)。
保佐は保佐開始の審判により開始し(民法857条)、保佐開始の審判は、精神上の障害により、事理弁識能力が著しく不十分な者を対象として行われます(民法11条)。被保佐人は、民法13条1項各号に列挙されている重要な財産上の行為については、日常生活に関する行為以外は、補佐人の同意なく単独で行うことはできず、もし単独で行ってしまった場合は保佐人が取消すことができます(民法13条4項)。また、家庭裁判所は、民法13条1項各号に列挙されている事項以外でも、日常生活に関する行為以外について保佐人の同意を要する事項を定めることができます(民法13条2項)。
補助は、補助開始の審判によって開始し(民法876条の6)、補助開始の審判は、精神上の障害により、事理弁識能力が不十分なものを対象として行われます(民法15条1項)。補助開始の審判によって生じる効果は、補助の開始のみであり、補助人の同意を要すべき事項や補助人が代理できる事項は、補助開始の審判とは別の、同意権付与の審判や代理権付与の審判により個別的に定められます(民法17条1項本文、同876条の9第1項)。同意権付与の審判と代理権付与の審判は、一方のみがされても両方がされてもかまいません。もっとも、被補助人が補助人の同意を必要とする事項については、被補助人は被保佐人よりも高い判断能力を有することから、被保佐人が同意を必要とする民法13条1項各号の行為の一部に限られます(民法17条1項ただし書)。補助人に代理権を付与する場合は、この様な制約はありません。
そして、補助人に同意権が付与された場合は、その事項について被補助人は単独で行うことができず、もし行ってしまった場合は、補助人が取消すことができますが(民法17条4項)、補助人に代理権のみが付与された場合には、被補助人はその事項についても単独で行うことができ、補助人は取消すことができません。