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相続法改正の内容について

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1.40年ぶりの大改正
 相続法は,5編ある民法の中の1編を担う重要な法律ですが,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする規定を違憲とした最高裁決定を受けて当該部分が改正された以外では,ほとんど改正のない分野でした。
 しかし,その相続法も,価値観の多様性が加速する現代において,法改正の必要に迫られ,とうとう大改正されることになりました。
 今回は,その改正内容を極めて簡単に説明します。詳細な検討はそれぞれのテーマごとに別の記事で解説していきたいと思います。

2.相続法改正の大枠
 今回の相続法改正の対象となっているテーマには概略7つあります。①配偶者居住権,②遺産分割,③遺言制度,④遺言執行者の権限,⑤遺留分制度,⑥相続の効力,⑦相続人以外の寄与分です。
 順に,見ていきましょう。

3.配偶者居住権
 今回の相続法改正の目玉です。
 これは,その名前の通り,相続開始時(被相続人死亡時)に配偶者が被相続人名義の建物に居住していた場合に,その建物に住み続ける権利を与えることができるという制度です。
 与えることができるというだけで必ず発生する権利でないことがポイントです。この権利を設定するには,当該建物が被相続人の単独所有であることと,遺言,遺産分割,家庭裁判所の審判のいずれかの方法を取ることが求められています。
 なお従来の相続法の中の解釈として最高裁が認めてきた権利として,被相続人名義の建物に居住する配偶者は遺産分割が終了するまで当該建物を無償で使用できるとするものがあります(最高裁平成8年12月17日判決)が,改正法では,これに類似する権利を配偶者短期居住権として認めています。

4.遺産分割
(1)遺産分割に関連する改正はいくつかありますが,まず特別受益の持戻しを10年に限定している点が分かりやすいです。確かに,10年以上前に被相続人からもらったものを相続分算定において考慮するというのは,その事実や価格の算定等の立証の困難さを考えると実効的であるとはいえない部分があり,にも関わらず理念上は認められてしまうとなるとその主張を排斥できないので紛争を無駄に長期化する原因となってしまいかねないところがありました。そのため,期間を制限することでバランスを取ったということですね。
(2)また,配偶者に対して,居住の用に供する建物又はその敷地についての贈与で婚姻期間が20年以上である場合には,特別受益として考慮しなくて良いとする被相続人の意思表示(持戻し免除の意思表示)があったものと推定されることになりました。
(3)旧相続法下の相続手続の中で一番多くの人が直面する実際的な問題として,預金の払い戻しをするために相当程度の時間が必要であるということがあります。これは金融機関の運用によるものなのですが,金融機関が安心して預金を払い戻せるようにすることで相続人らの生活を安定させることを目的として,改正法では,法定相続人は法定相続分の3分の1(上限150万円)まで遺産分割前に引き出すことが可能であることになりました。
(4)最後に,相続人の一人が遺産分割前に遺産を使用処分してしまった場合,その使用処分した相続人以外の相続人の同意があれば遺産についても遺産分割の対象とすることができることとなりました。

5.遺言制度
 遺言制度も大きく改正されます。
まず,自筆証書遺言を法務局に保管して検索できるようになります。自筆証書遺言は誰かに隠匿されたり滅失されたりするリスクがあり,このリスクを大きく低減できると期待されています。また,自筆証書遺言の中の財産目録については自書でなくても良いとされ,有効要件が若干ですが緩和されました。

6.遺言執行者の権限
 遺言執行者は,旧法下では相続人の代理人とされていましたが,遺言内容によっては相続人の利益に反する遺言を執行する立場にあることなどもあり,改正法では,遺言執行者は,「遺言の内容を実現するため・・・遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされ,「相続人の代理人」とした規定は削除されました。
 また,遺言執行者が第三者に執行を復任することもできるようになりました。他にも遺言執行者の権限関連は整理されていますが,いずれも実務的にあった遺言執行の課題に対応するものです。

7.遺留分
 遺留分減殺請求権は,旧法下では物権的請求であり相続財産全体について遺留分減殺請求権が行使されると相続財産全てが共有状態になると理解されていましたが,実際には多くのケースで価格弁償がなされる中で,そのように理解する必要性に乏しいばかりか紛争を無駄に複雑化することになるため,改正法では,遺留分減殺請求権は,遺留分侵害額請求権として価額弁償を求めることができる債権的請求権であること変更されました。

8.相続の効力
 旧法下では,遺言等で相続した不動産の権利取得について当該不動産の相続人は登記なくして第三者に対抗できると考えられていました(最判平成14年6月10日参照)。
 しかし,これではあまりに取引の安全を害する可能性があることから,改正法では,相続による権利の承継について法定相続分を超える部分については登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないこととされました。
 要するに,相続の場合も,登記等はしっかりやりましょうということですね。他にも,債権譲渡の対抗要件具備をしやすくする規定なども盛り込まれています。

9.相続人以外の寄与分(特別寄与料)
 これまで相続人にしか認められなかった寄与分について,相続人の親族の無償の療養看護について特別の寄与として特別寄与料を請求できることになりました。実際に,相続人の親族,特に配偶者が被相続人である義理の父や母に対して無償で療養看護しているケースは多く,この行為が相続に当たって全く考慮されてなくていいのかという課題がありました。改正法では,この課題を条文をもって明確に解決しました。
 今後は,実務的には,特別寄与料の額が問題になってくるでしょう。