遺言書は普段は作る機会がない書類なので、どのように作成したら良いのか分からないという方がほとんどだと思います。
しかし、安心してください。
遺言書は、形式さえ理解しておけば誰でも簡単に作れます。
それに、自分で作り方を覚えておけば、後から遺言書を気軽に作り直すことができて便利です。
ただし注意点もあり、自分で作成する場合は、自筆の規定や印鑑の押し忘れなどに気をつけなければなりません。
ちょっとしたミスで遺言書は失効してしまうので、正しい作り方を必ず確認しておいてください。
この記事では、遺言書の種類や作成方法、注意すべきポイントなどを徹底的に解説します。
残った家族や大切な人のためにも、正しい遺言書の作成方法を身につけましょう。
遺言書作成方法の前に、遺言書を作成する目的を明確にしておきましょう。
遺言書を作成する目的は、大きく分けて次の3つです。
遺言書の目的を正しく理解していないと、作成途中で書き方に迷いが出てしまうので、よく確認しておいてください。
遺言書を作成する一番大きな目的が、自身の財産を、誰にどのくらい残したいのか表明することです。
遺言書に書き記すことで、お世話になった友人や知人など、法定相続人以外の人にも財産を相続することができます。
また、誰に相続するかの意思表明を遺言書に残しておけば、意図しなかった人に財産が相続されてしまうことも防げます。
あなたの望んでいる人に財産を相続するためにも、遺言書を遺しておきましょう。
あなたがいなくなった後、家族や親戚間などでの相続トラブルを回避することも目的一つです。
遺言書がなければ、残された家族と親戚間で相続トラブルが起きる可能性があります。
生前に家族と親戚で仲が良くても、相続トラブルを機に険悪になってしまうケースも少なくありません。
残された人たちが相続トラブルなく、円満な仲を取り持つためにも、遺言書を残しておくことは大事です。
残された家族が相続手続きを円滑に進めるためにも遺言書を作成しましょう。
遺言書が書いてあれば、遺産相続の際に「遺産分割協議」を行わずに相続手続きができます。
遺産分割協議とは、相続人にあたる親族を全員集め、遺産の相続割合について話し合う協議です。
遺産分割協議を行うとなれば、遠方から親族を呼ぶ必要があるため、全員の予定を合わせるのが大変です。
遺言書を遺しておくことで、円滑な遺産相続につながるのです。
遺言書を作る目的がわかったところで、ここからは「遺言書の種類」について解説します。
遺言書には、3つの種類があります。
それぞれの遺言書に特徴があり、作成費用も異なってきますので、「自分はどの遺言書が合っているのか」を確認しておきましょう。
自筆証書遺言は、すべて自分で執筆した遺言書のことです。
自分で執筆するため、費用が掛からず、いつでも作成と修正ができるのがメリットです。
ただし、自己管理が基本なので、遺言書の存在を秘密にしておける反面、紛失などの恐れがあります。
また、内容に不備があると遺言書の法的効力が無くなってしまいますので、作成時には細心の注意が必要です。
自筆証書遺言の作成時には、作成方法をよく確認して、ミスのない遺言書作成を心がけましょう。
公正証書遺言は、遺言書を公正証書として公証役場で保管してもらう方式の遺言書です。
遺言書作成後に証人二人の立会いの元、公証人が遺言書内容を読み聞かせ、最後に遺言者と証人が著名と押印をすることで法的効力を持ちます。
作成した遺言書は、公証役場で長期間保管してくれるため、紛失や改ざんの心配がありません。
また、公証人が関与しているため、無効になる可能性が少ないことが大きなメリットです。
デメリットを挙げるとすれば、内容を秘密にできないことや、手続きが難しく、費用が掛かることです。
内容を修正する場合にも、再度同じ手続きを行う必要があるので、作成後には変更がないように気をつけましょう。
秘密証書遺言は、自筆の遺言書を本文が見えないように封をして、公証人と証人の署名・捺印を入れて作成した遺言書です。
遺言書の内容を秘密にしたまま、存在だけを公的に証明できるので、遺言書が発見されないケースを防ぐことができます。
秘密証書遺言の場合、署名以外の内容は代筆やパソコンでも有効です。
そのため、すべて自筆の必要がある「自筆証書遺言」に比べて負担は少ないでしょう。
ただし、内容に不備があれば無効になりますし、自筆証書と同様に自己管理が基本なので、紛失のリスクを拭いきれないデメリットはあります。
上記二つの方式に比べて利用されることはかなり少ないです。
どの種類の遺言書を作成するか決めたら、作成手順を確認しましょう。
各種遺言書の法的効果を得るための作成方法を順番に解説していきます。
遺言書を作成する前に、まずは遺言内容について把握しておきましょう。
遺言書を作成するには、以下の2つの準備が必要です。
順番に解説していきます。
自身の財産をしっかりと整理し、把握しておくことが、遺言書作成では重要です。
現金、預貯金、不動産、有価証券以外にも、貴重品や骨董品、自動車などの経済的に価値があるものはすべて財産となります。
忘れがちですが、著作権や特許権などの権利や、借家・借地などの貸借権も相続財産の対象です。
この段階で借金や住宅ローンなどのマイナス財産も確認しておくといいでしょう。
遺言書には、財産特定のために正確な情報の記載が必要です。
たとえば預貯金であれば銀行名、支店名、口座番号で特定できます。
また、不動産であれば登記簿謄本が有効な書類となります。
相続トラブル回避のためには、可能な限り、財産の所有を証明できる文書を用意してください。
続いては、自筆証書遺言の作成方法から解説していきます。
自筆証書遺言は、自分で作成して、自分で管理するものです。
第三者に添削をしてもらえないのが、遺言書の作成で難しいポイントと言えます。
間違った記載内容で遺言書の法的効果がなくなってしまわないように、紹介する内容を確実に踏まえて作成を行なってください。
遺族は遺言書に記載してある割合をもとに相続手続きを行うため、誰にどれくらいの遺産を相続するか明確にしておかなければなりません。
もし、遺言書に記載のない財産があれば、その相続に関して遺産分割協議を行う必要があります。
また、遺言内容により、借金の相続など相続人に不利益が生じる場合も協議が必要です。
自分がいなくなった後に、ご家族がスムーズに相続できるように、相続する割合を改めて確認しておいてください。
確認が終わったら、遺言書の作成に移ります。
遺言書を書く際に絶対守らないといけないのは、「全文・日付・氏名をすべて自筆で書き、著名・押印を忘れずに入れる」ということです。
これを守らなければ、法的効力がなくなってしまいますので、書き終えたら必ず確認するようにしましょう。
このほかに注意してほしいことのは、次の5つです。
法的効果が無くならないよう気を付けて、遺言書を書き上げましょう。
遺言書を封筒に入れて割り印をし、封印します。
遺言書を封印するのは、法的に規定されたことではありませんが、不正や改ざんを防ぐためにもおすすめです。
割り印をしてないと、他人による悪意ある改ざんが起きても気が付かないためです。
封筒の表面に、遺言書在中と記載し、然るべき時に確実に見つけられるよう工夫しておきましょう。
裏面には、記入日、署名、印鑑をすれば、誤開封を防ぐことができます。
公正証書遺言の作成には、公証人との打ち合わせが必要になるので、執筆の事前準備が大切になります。
ここでは、公正証書遺言の作成方法を紹介します。
公証人との打ち合わせ前に、作成に必要な書類を準備しておきましょう。
必要な書類は、「本人の印鑑証明」「戸籍謄本」「相続人と本人の間柄がわかる戸籍謄本」「銀行名や支店・口座番号がわかる資料」です。
さらに、相続権がない人にも相続させる場合には、「受贈者の住民票」も必要になります。
相続財産の中に不動産が含まれる場合には、「登記事項証明書、固定資産税評価証明書」が必要です。
証明書があれば、遺族が相続手続きに移るとき、不動産の特定ができます。
その他、車や骨董品など相続させたい財産がある場合には、できるだけ書面にまとめた財産が特定できる資料を用意しておきましょう。
公正証書遺言を作成するためには、証人を2人用意する必要があります。
証人の人数は、法的に決められているため、確実に用意しましょう。
証人を用意する方法は、「自分で探す」「弁護士などの専門家に依頼する」「公証役場で証人を準備してもらう」のいずれかです。
相続人や公証人の近親者・未成年者では証人になれませんので注意してください。
遺言書を認可してもらうための公証役場を調べましょう。
公証役場は、全国に300ヶ所ほどあります。
役場によって大小はありますが、特に決め方がわからなければ、一番住所から近いところがいいでしょう。
公証役場が決まったら電話して担当者を確認しましょう。
公証役場へ急に行っても、遺言書作成はできません。
相続人、遺言内容、証人の準備、遺言作成の日時をあらかじめ打ち合わせしておきましょう。
準備がすべて整ったら、公証役場で遺言書を作成しましょう。
作成の流れは、以下の通りです。
最後に公証人に手数料を支払い、完了となります。
執筆作業をすべて公証人の目前で行うので、遺言書の不備は起こりにくくて安心です。
しかし、公証人は相続内容の助言やトラブル回避のアドバイスはしてくれないので、自分でよく確認しておきましょう。
秘密証書遺言は、遺言書の中身は公表せず、その存在だけ公表するという遺言書です。
遺言書の内容は自分しか見ていないため、不備を指摘してもらうことはできません。
封印前に必ず確認して、法的効力の失効には気を付けましょう。
まずは遺言書を書き上げます。
秘密証書遺言は、著名が自筆で押印してあれば、必ずしも手書きで作る必要はありません。
パソコンの打ち出しや代筆でも可能です。
内容は、自筆証書遺言の作成方法と同様ですが、本文に日付の記載がなくても、公証人が封筒に記載するため、日付漏れで無効になることはありません。
ただし、本文中の自筆の署名と押印だけは、直接失効につながるので注意しましょう。
遺言者が遺言書を封筒に入れ、本文中で用いた印鑑で押印します。
印鑑が遺言書本文中のものと異なる場合、失効の対象になりますので、本文と同じものを使いましょう。
一度封印したら、相続が開始するまで開封されることはないので、本文の内容、署名・押印をしっかり確認しておきましょう。
公証役場で秘密証書遺言を有効にするには、2人の証人が必要です。
あらかじめ証人の選定と、公証役場へ行く日程調整をしておきましょう。
ただし、相続人になる人、未成年者、遺言者の親族、公証人の親族、公証役場の関係者は証人として認められませんので、それ以外の人から選定してください。
証人との間で日程を調整したら、公証役場に連絡して、秘密証書遺言提出の旨を伝えておきましょう。
公証人が封筒に、遺言書を提出した日と遺言者の申述を記載します。
公証人と証人2人の立会いの元、封筒に署名・押印をしたら、秘密証書遺言の完成です。
完成した遺言書は自己管理が基本となりますので、相続が始まるときに見つかるよう、保管しておきましょう。
公証役場には遺言書を作成した、という記録だけは残っていますので遺族にしっかり探してもらえるはずです。
遺言書作成時で失敗しないために確認しておくべきポイントは以下の5つです。
いずれも残された遺族が円満に相続をするために必要なことなので、しっかりチェックしておきましょう。
遺言書で遺族の「遺留分」を侵害してしまうと、遺言が無効になってしまう可能性があります。
遺言内容が無効にならないためにも、遺留分の額は十分考慮しておきましょう。
遺留分とは、配偶者または子供に法律上保障された一定割合の相続財産のことをいいます。
遺言者の遺産は本来ならば遺言者の自由にできて当然です。
しかし、相続には残された相続人の生活保障と、遺言者の財産構築に貢献したという相続人への清算的側面があります。
遺言者の利益と相続人の保護のバランスをとったのが遺留分なのです。
遺留分の割合は遺された遺族の人数によって違いがあります。
それぞれ場合に分けて説明していきます。
⇒遺された遺族が子供だけの場合
遺留分として保障されるのは、子どもの場合遺産の1/2です。
子供が複数人いる場合は、1/2の遺留分をさらに等分します。
⇒残された遺族が配偶者と子供の場合
遺留分として保障は、配偶者に遺産の1/4、子供に遺産の1/4です。
子供が複数人いる場合には、1/4の遺留分をさらに等分します。
⇒遺された遺族が配偶者と直系尊属だけの場合
遺留分として保障は、配偶者に遺産の1/3、直系尊属つまり、実親に遺産の1/6です。
実の両親が父母ともいる場合には、1/6の遺留分をさらに等分します。
⇒残された遺族が直系尊属だけの場合
遺留分として保障は、直系尊属に遺産の1/3です。
実の両親が父母ともいる場合には、1/3の遺留分をさらに等分します。
相続遺留分の確保は、遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に権利を行使しないと、権利が時効で消えてしまいます。
遺留分を確保する権利は、遺留分減殺請求権といい、相続権のある遺族が遺言書の内容を一部無効にし、遺留分を確保するものです。
この遺留分の侵害には、相続開始前1年以内の贈与も計算に含まれますので、生前贈与を検討している場合は計算に入れておきましょう。
遺留分減殺請求権は効力が高く、行使されると遺言書全文が無効になることもあるので、遺産配分を考える際には遺留分を考慮する必要があるのです。
遺言内容にトラブルが起きそうな場合は、あらかじめ遺言執行者を決めておきましょう。
遺言執行者に財産分与に関わる一切の権利を与えておくことで、遺言内容の相続を滞りなく執行してくれます。
遺言執行人は、相続人や受遺者もなることができますが、トラブルを極力少なくするためには、行政書士や弁護士などの第三者に依頼するのがいいでしょう。
もちろん、トラブルが起きない内容にするのがベストです。
しかし、不安な場合には自分の代理として遺言執行人を立てることをおすすめします。
「なにを、誰に、どれだけ相続するのか」財産すべての相続先を、明確に記しておきましょう。
万一、財産把握に漏れがあり、その他の財産が見つかると、改めて遺産分割協議を開かなければなりません。
財産の把握漏れがあった時のために、考えられる財産の相続先を記載後、「記載のないその他の財産は○○に相続する」と一言加えておきましょう。
一言加えるだけで、その他の遺産が後から判明したときに書き直しをする必要がなくなるのです。
付言事項には法的効果はありませんが、遺言者の思いを記載することができます。
もし、相続人間でトラブルが心配されたら、付言事項を活用しましょう。
例えば、遺産相続割合の理由や、遺族への感謝を記すことで、遺族のトラブル回避に役立ちます。
法的効果がない付言事項ですが、遺族にとっては大切な一文になるのです。
遺言書の効力失効には、十分気を付けましょう。
せっかく遺族のためを思って作成した遺言書でも、法的効力が無くなってしまうとトラブルの原因になります。
法的効果を失効する一番の要因は、遺言書の署名と押印の不備です。
単純なことですが、忘れやすくもあるので、しっかり確認しておいてください。
遺言書の効力失効は遺言者のミスに起因しますので、見直しをしっかりして作成していきましょう。
遺言書が作成出来たら以下のことに気を付けましょう。
詳しく解説していきます。
作成した遺言書の紛失には十分注意しておきましょう。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、基本的には然るべき時まで自己管理しておくものなので、しっかり保管場所を決めて、遺族が探しやすいようにするのが大切です。
もし紛失の心配をするのであれば、公証役場に預けられる、公正証書遺言にすることをおすすめします。
遺言書は生前ならいつでも書き直しができます。
間違いや修正が必要な場合には、気づいた段階で早めに書き直しをしましょう。
ただし、自筆証書遺言なら簡単に修正できますが、公正証書遺言や秘密証書遺言の場合には、再度公証役場での手続きが必要になります。
手間がかかるとはいえ、修正が必要なら後悔する前に作り直しておいてください。
遺族が注意することですが、遺言書は見つけてすぐに開封してはいけません。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、家庭裁判所にもっていき、遺族の立会いの下でしか開封することができないのです。
これを違反して開封してしまうと、開封者に5万円以下の罰則金などに処せられてしまいます。
遺言者として気を使うとしたら、遺言書と一緒にメモ書きを残すか、あらかじめ親族に伝えておくといいでしょう。
遺言書作成で悩むことがあれば専門家に相談しましょう。
関連する専門家は以下の通りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続遺産に不動産が含まれる場合は、司法書士に相談するのがいいでしょう。
司法書士であれば、財産としての不動産情報を正確に特定してくれます。
また、相続時に不動産の名義変更の必要があるならば、遺言段階で依頼しておくと相続がスムーズです。
不動産の相続に困ったら司法書士に相談してみましょう。
遺言内容で遺留分を侵害する場合や、明らかにトラブルに発展しそうな場合は、あらかじめ弁護士に依頼しておきましょう。
弁護士であれば、トラブルを未然に防ぐ遺言書の書き方など助言をしてくれます。
万一、トラブルに発展しても解決に尽力してくれるでしょう。
トラブルの心配が少しでもあるなら弁護士を頼るのが一番です。
遺言書作成について気軽に相談したいのであれば、行政書士に依頼しましょう。
行政書士は遺言書の作成を本来の業務としている事務所も多く、受任件数も他の士業に比べ多いです。
料金形態も他の士業より安いので、気軽に相談できます。
相続トラブルの憂いや特段こだわりがなければ、行政書士に相談するといいでしょう。
遺言書を作成するなら、どんな思いを込めてどんな目的で遺すのか考えてから、適切な種類の遺言書を遺すようにしましょう。
遺言書の種類にはそれぞれ特徴がありますので、自分に合った遺言書選びが大切になります。
扱いやすさでは、自筆証書遺言が一番ですが、遺言書のミスや間違いによる法的効果の失効で心配であれば、公正証書遺言が安心です。
財産を残された家族や大切な人が揉めないように心がけて、遺言書を準備してください。
※相続法分野は大きな改正が行われました。併せてこちらの記事もご覧ください。