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遺産分割に時効はある?遺産相続を協議する際の注意点は?

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遺産分割がなかなか進まないことはよくあります。

しかし、実は、遺産分割協議に時効はないということはあまり意識されていません。

時効がないのであれば、遺産分割は一体いつまでにすればよいのでしょうか?

遺産分割の時効

被相続人に遺言書がなかったときは、相続人同士で遺産分割協議をします。

これが始まらないときは、 1人の相続人が他の相続人に「遺産分割をしましょう」と言うことができ、この権利を「遺産分割請求権」と呼びます。

この遺産分割請求権に、時効はないのです。

つまり、相続人が生きている限り請求することができるのです。

そして、その相続人が遺産分割をせずに亡くなったとしても、遺産分割請求権自体が相続され、次の世代が権利を使うことができます

遺産分割に期限はないと言っても、相続の手続きの中には期限を持つものが多くあります。

遺産分割がなされないままであった場合、どのようなことが起こるかを考えておかなくてはなりません。

例えば、被相続人の口座が凍結され、まとまった預金が下せません

相続法改正により、同一の金融機関に対して150万円を限度に預金を引き出せるようになりましたが、その程度です。

また、株式など価格が変動する財産の場合は評価が下がっていくこともあります。

特にマイナスの財産、つまり借金がある場合には債権者が要るため早めの手続きが必要です。

相続手続きにおける期限について

相続に係る手続きの中で期限をもつものや時効があるものを見ていきましょう。

それらの中で、重要なものについて個々に説明していきましょう。

【相続放棄、限定承認】

亡くなった人の借金を背負わなくてよいというのが、相続放棄や限定承認です。

民法では相続が開始すると、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に、単純承認、限定承認、または相続放棄をしなければならないとされています。

つまり、3か月間の熟慮期間があるのでこの間に、相続分について、限定承認するのか、相続放棄をするのかを決めなければ単純承認となります。

遺産分割に期限はありませんが、遺産がほとんど借金の場合は、遺産分割に時間をかける必要はなく、放棄の手続きを進める方がよいでしょう。

しかし、相続の放棄により相続人の順位が移り、別の相続人に影響があることを認識しなければなりません。

相続放棄が、財産も借金も一切相続しないことにくらべ、限定承認とは相続を受けた人が、財産の範囲内で借金や負債を引継ぐという方法です。

限定承認も3か月の熟慮期間がありますが、相続放棄と異なり、相続人の全員が共同で限定承認を申請する必要があります。

したがって、遺産の中に借入金が多い場合には、相続放棄や限定承認によって早めの手続きをしたほうがよいでしょう。

【相続税の確定申告、配偶者の軽減など】

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。

多くの場合は被相続人の死亡によって相続が開始するので、例えば被相続人の死亡が10月1日であれば、申告期限は翌年8月1日となります。

しかし、相続税の申告書自体は遺産未分割の状態でも特例的に「3年以内の分割見込書」を添付して行うことはできますが、遺産未分割のままでは小規模宅地等の特例(最大土地の価額が8割減等になる)や配偶者の税額軽減の特例(配偶者なら1億6千万円まで課税なし等)を受けることはできません。

少なくとも申告後3年以内に分割しないと、支払った相続税は戻ってきません

また、相続財産が農地である場合には、納税猶予という大変有利な特例がありますが、遺産未分割ですと適用できません

したがって、相続税が発生するケースでは、早めの手続きをした方がよいでしょう。

【債権の時効】

被相続人が借金(相続債務)を持っていた場合には、一定期間が経過すると時効となります。

債権者がその権利を行使することができる時から5年(民法改正前の債権は10年の場合もあります)で消滅時効となります。

しかし、被相続人が債権を持っていた場合に、遺産分割が進まなければせっかくのプラスの遺産が消滅するリスクもあるということです。

遺産相続を協議する際の注意点は?

遺産分割協議がまとまらない場合には、熟慮期間を延ばすこともできます。

しかし、税金を逃れることは原則できないと思ってよいでしょう。

【熟慮期間の伸長】

相続放棄や限定承認の熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、放棄するか限定承認にするかを決定できない場合は、家庭裁判所への申立てによって、熟慮期間を伸長することは可能です。

熟慮期間の伸長期限については定めがありませんので、伸長する期間について具体的に申立書に記載する必要はありますが、家庭裁判所はある程度柔軟に考えてくれます。

【税金の時効】

極端な例を挙げますと、相続税については原則5年で時効(正確には、排斥期間といいます)となります。

これは相続税だけでなく、税務署が一定期間納税者に税金の請求をしなければ税を免れるというものです。

そして、故意に無申告の場合は7年となります。

しかし、多くの場合は税務署から連絡がきます。

相続税の発生を知って何もしないということは、無申告加算税や延滞税、さらには重加算税という重い税金の対象になり、期限内で申告した場合の何倍もの税金が課せられる恐れがあります

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

ここまでのポイントをまとめますと、

  • 遺産分割については、期限はない
  • 相続放棄や限定承認の期限は相続開始を知ってから3か月(熟慮期間)以内
  • 相続税の申告は相続開始を知ってから10か月以内
  • 遺産に借入金が多い場合や相続税が発生する場合には早めの遺産分割がよい

となります。

遺産分割協議がまとまらないのであれば、家庭裁判所における遺産分割調停を申し立てしましょう

調停でもまとまらない場合には、審判により法定相続分に沿った分割を決定します。

そもそも法定相続分で納得いかないからもめていたとしても、審判で法定相続分での分割と決まれば、「もめる理由がなかった」ということになってしまいます。

それだけは避けたいですね。